Sunday, February 21, 2016

DroidKaigi 2016 うらばなし

 2/18, 19の2日間で、DroidKaigi 2016の2日間が終わりました。
 講演された皆様からも聴講された皆様からも大変にご好評だったようです。立ち上げから関わった者としては嬉しい限りです。

 私はDroidKaigi 2016は準備を手伝っただけで、当日は参加していなかったため内容の善し悪しについて何かを言うことはできません。
 ここでは裏方の立場からDroidKaigi 2016について感じたことを、簡単に備忘も兼ねて書いておきます。

会場


  「平日2日間・終日・数百名」の規模になると、会場が決まらなくては何も始まりません。会場探しを始めたのが8月頃で複数の候補を当たってみたものの、日時や場所など、こちらの希望とマッチングが取れる会場は最終的には1か所しかありませんでした。他の会場候補・日程候補と比較検討を行い、会場と日時が確定したのは10月後半です。
 他の開発者向けイベントなどと可能な限り日程が重ならないように調整したのですが、全てを避けることは難しくデブサミとは見事にかぶってしまいました。
 なお会場の選定及び予約・支払い等の諸手続きについては、東京工業大学の首藤一幸先生及び事務のMさんに多大なるご協力をいただきました。

予算


 会場が確定したら、次は費用です。
 会場だけが決まった時点では中味をどのようなイベントにするか何も決まっていなかったので、予算計画も白紙でした。ちなみに前回のDroidKaigi (以下DroidKaigi 2015)は会場や昼食は全てスポンサーさんが現物で提供してくれたため、収入も支出も大した金額にはなりませんでした。チケットを無料にしたところ10分で完売してしまったのでDroidKaigi 2016ではチケットを有料とすることにしましたが、何枚売れるのか全く見当がつきませんでした。
 ただDroidKaigi 2015の感触から、スポンサーが付いてくれればそれなりの規模のイベントは開催できるだろうという見込みはありました。また私は以前日本Androidの会にNPO法人の社員として参加していたこともあるので、Android Bazaar and Conferenceの収支の情報もある程度把握していました。その時の経験は今回とても役に立ちました1
 また、まだ計画がほぼ白紙なのにも関わらずA社さんがスポンサーとして一番に手を挙げて下さったので、その後のスポンサー探しが順調に進みました。これで収入の見込みが立ち、チケット代の売れ行きが芳しくなかった場合でも「(個人では負担できない程の)大きな赤字は出ないだろう」という確信を持つことができました。ここでも裏で多くの方が動いて下さいました。
 結果としてはチケットはほぼ完売し予算確保の懸念は杞憂であったことがわかりましたが、それは終わった今だからこそ言えることです。当時は薄氷を渡る思いで資金調達に走っていました。
 なお東京工業大学は会場費の支払いをかなり直前まで待ってくれましたので、その点について非常に助かりました。民間のイベント会場では、こんな離れ技はできなかったはずです。2

体制


 予算の目処が立ったら、次は体制作りです。
 DroidKaigi 2015の実行委員会には人数こそ多くないものの、頼りがいのある強力なメンバーが揃っていました。
 しかし開催時期が変わると「本業が忙しい」などの理由でなかなか十分な人数が集まりません。規模を拡大することもあり、スタッフも新しく公募することにしました。スタッフの公募はCFPと同時に行いました。
 これにより人数は確保できたものの、他のメンバーと面識が全くない人も少なからずいて、コミュニケーション体制作りが急務となりました。

 DroidKaigi 2015の時はIssueをGitHubで管理し、Slackで会話する、という簡単な体制は作っていました。ドキュメント類はGoogle Docsで管理していました。これらの方針はDroidKaigi 2016でも踏襲しました。しかし、人数が増えた結果、

  • Slack/GitHub/Googleの各アカウント名がバラバラで、Slackの○○さんとGitHubの××さんが同一人物かどうかわからない
  • 2015でスタッフだった△△さんは2016でもスタッフとして参加するのかわからない

といった、ごく基本的な情報すら共有できていない事態が発生しはじめたのです。この時期は冬コミの直前で、実行委員長の @mhidakaそちらの準備に忙しく実行委員会の立ち上げにまで十分手が回っていない状態でした。

 そのため急遽、私が実行委員名簿を作成して各サイトのアカウントを全員に記入してもらい、

  • 個人の特定は原則としてSlackアカウントを使う
  • Slack/GitHub/Googleの全てのアカウントを共有できない人は、実行委員会から外れてもらう
  • 自分がスタッフであることを公式サイトに掲載することを必須とする

というような基本的な共通ルールをいくつか定めました。
 こういう作業はプロジェクトマネジメントの視点では必須で、当たり前のことのように思えます。しかし、いざ新しく組織を作るときになると誰もやりたがらなったりするのです。また後から新しく入ってもらったばかりで右も左もわからないスタッフにルール作りを任せてしまうのも、ちょっと無理がありました。

 後述する法人の立ち上げも色々と手続きが必要で、人手は足りたものの「課題を整理して作業を担当者に割り当てる」というマネジメントの基本が思うように進まず、組織としてはなかなか動き始めませんでした。
 こういった問題を解決するためFace to faceのミーティングを不定期に開催するのと合わせて、毎週土曜日にSlackで進捗確認のミーティングを行うことにしました。このあたりは主に @punchdrunker さんが仕切ってくれました。Face to faceのミーティングにはGoogle Hangoutを併用しました。Jabraのスピーカーホンは欠かせないアイテムです。
 私がもっとも焦りを感じていたのは、このような事が次々と起きていた11月から12月にかけての時期でした。

法人


 会場の予約やスポンサーの協賛費用の受け取りを個人名義で全てこなすのは難しいことでした。そのため、新しく法人を作ることになりました。法人は基本的にはお金の管理を行うだけで、実行委員会とは別の組織としました。
 これは割と重要なところで、実行委員会を法人組織の一部として定義してしまうと色々な法律などの規定に縛られてしまいます。
 法人の定款に組織の実態を定義することで透明性を高める方法はありますが、DroidKaigiでは柔軟性を優先しました。
 また法人と一口にいっても株式会社など、いくつかの形体が考えられます。DroidKaigiでは原則として実行委員に報酬を払うことはなく、また営利目的で活動している訳でもないため非営利型の法人を新しく作ることにしました。

 非営利型の法人もいくつかの種類があります。例えば日本Androidの会はNPO法人です。しかしDroidKaigiでは一般社団法人を作りました。
 一般社団法人とNPO法人にはいつくかの違いがありますが、法律的な難しい話を無視してぶっちゃけて言うと、一般社団法人の方がNPO法人よりも組織としてコンパクトな法人を作ることが可能です。一方でNPO法人は、透明性が高い組織を作れます。
 DroidKaigiは柔軟な体制作りを目標としていたので、コンパクトな法人の方が都合が何かと都合がよくなります。従って一般社団法人を作ることにしたのです。
 ただ、私自身は本業との兼ね合いで法人の役員や社員に就任しませんでした。その役目は他のスタッフの方々に任せました。そのため私は予算の執行権限などは何も持っていません。
 またコンパクトな一般社団法人にしても法務局への登記や非営利化のための臨時社員総会など必要最低限の手続きは避けられず、それなりの手間がかかっています。

キャッシュフローと経費精算


 会社など金銭がからむ組織を運営(経営)するためには、予算計画と同時にキャッシュフローを常に維持する必要があります。いわゆる資金繰りというやつです。これは経費精算問題と直結します。

 DroidKaigiは柔軟な組織を目指したので、低額の経費などは一定の範囲内で担当者に裁量権を与え、後付けで法人の役員が承認するような精算のルールを作りました。こういう地味な作業もおろそかにすると、後でとんでもない事態に発展したりするので、わりと重要だったりします。

 精算ルールを作ったおかげで収支の見込みも立てやすくなりました。
「費用はいくらまで使えるのか」
「スポンサーを何社集めればよいか」
というような計画が立てられるようになったのです。
 本来なら先に予算計画があり、それを目指してチケット代を設定してスポンサーを集めるべきです。
 しかしDroidKaigi2016 は有料イベントとしての開催実績がなく、スポンサーさんが何社参加してくれるのか見当もつきませんでした。そこで最初は最小限の費用で開催できるような小さなイベントの計画を立て、後付けで配布物や食事・懇親会などを追加していきました。
 しかし法人は立ち上げたばかりで資本金もなく、銀行口座の残高はゼロ円。スポンサーさんも数社から協賛の約束は取り付けたものの基本的に後払いなので、キャッシュフローも綱渡り。
「立ち上げたばかりの法人が黒字倒産直前」
の状態がしばらく続きました。
「万一のときは損失は自分達でかぶろう」
というような話が法人役員の内部であったと、後で聞きました。活動実績がない法人に対しては、銀行は何の役にも立ってくれません。それどころか口座開設するだけでも銀行側の審査がなかなか通らず、大変でした。3

 一時的に立替してくれそうな人がいれば劣後債を発行するなどの手がありましたが、万が一にも返済不可能になれば債権者たるスタッフに影響が出るのは避けられません。そうでなくても、発行などの諸手続きが面倒くさくなります。借金は最後の奥の手として取っておくことにしていました。
 そうこうしているうちにB社さんがこちらの事情を汲んで下さり、イベント開催前の協賛金の支払いに応じてくれることになりました。これで奥の手を使わずにキャッシュフローを改善することが可能になりました。ここでも多くの方々が裏で動いてくれました。

CFPと海外対応


CFPによる講演募集はDroidKaigi 2015から引き続いて行いました。
「招待講演以外の講演は全て公募し、スタッフが厳正に選定する」
のはDroidKaigiの大原則でもあります。
 ただ私には今まで書いたような事務的な作業がたくさんあったので、CFP関係の仕事は全部他のスタッフに任せていました。
 DroidKaigi 2015では私が選定のルールを作って講演を選定する全スタッフの間で共有していたのですが、DroidKaigi 2016ではそういう情報が事前に全てのスタッフに伝わらなかったようです。
 恣意的な選定が行われたような事はなかったはずですが、私自身も含めて選定時のルールや経緯などを確認する方法がエビデンスとして十分に残っているとは言い難い結果になってしまいました。ここは反省点のひとつとなります。ルールを決めて議事録などに残しておかないと、後から選定結果に疑義が出たときに、「我々の選定結果は正統である」と外部に対して説明するのが難しくなります。

 またCFPの英語版も作りました。 @hotchemi さんが AndoidStudyGroupに登録してみたところかなりの応募があり、そのうちのいくつかは採用となりました。
 ただCFPだけ英語版を作ればいいという話では済まず、影響は色々なところに出ました。例えばS222講義室をA会場という名前にしたのですが、この会場名にもRoom Aという英語訳が必要となりました。講演者向けに送る案内メールや公式アプリ、当日の掲示や受付スタッフの案内などで、全て日本語と英語の会場名が一致しないと日本語がわからない講演者は混乱してしまいます。こういうルールも当たり前のように思えて、つい見過ごしがちです。命名規則を最初に決めないとプロジェクトが迷走するのは、アプリ開発でもイベント開催でも同じです。

 ところでDroidKaigi 2016では講演当日にどうしても都合がつかなくなってしまった講演者の方がいて、その時間はNo Showとなってしまいました。そこで急遽、その時間を使ってスタッフによるFireSide Chatを行うことになったようです
 実はこれは苦肉の策で、こういう事態に備えて秘かに計画していたものでした。講演はCFPで公募しており、不採用せざるを得なかった方が多数います。それなのに「No Showが発生したから」という理由だけで、選定時に採用しなかった講演者を代役として立てることはできません。またスタッフの中にもCFPに応募して採用されている人が複数がいるので、「スタッフが代役で講演する」というのもNGです。
 そこで「万が一No Showが発生したときは、空き時間に講演ではない突発イベントなら行ってもよい」ということをスタッフ内で申し合わせておいたのです。

当日へ向けて


 こういう細かい所が決まった年末頃には体制も確定してきて「主要なタスクに担当者がいない」というような事態も解決されました。当日までにプロジェクトを無事に進められる見込みが立ってきました。
 一方で、私自身の本業が年明け頃から忙しくなる事が見えてきました。そこで、自分に割り当てられていた具体的な準備作業を少しずつ他のスタッフの皆さんに任せるようにしました。私自身のタスクを減らすように仕向けたのです。
 渡された側はさぞ大変だったと思いますが、私としては安心して年を越せる気分になりました。1月中旬に行った開催1か月前スタッフミーティングでは大きな議題も出尽くし、「あとは実際に担当者が動いてみて実行上の問題を見つけ、解決するだけ」の状態にほぼ近づいて行きました。
 新しく募集したスタッフには私が面識がなかった人が多く、当初不安もありました。しかし、いざ体制を整えてみると、みなモチベーションが高く優秀な人たちばかりであることもわかりました。大半のスタッフは第一線のエンジニアであり、時間を上手くやりくりして自分に割り当てられたタスクをこなしていました。その様子を見て安心して任せてよいと確信を持ちました。
 私は運営のためのルールをいくつも作った訳ですが、それらがルールを必要としているスタッフに理解され、かつ実際に活用されていました。細かな問題はたくさんありましたが、それらは解決の見込みがあるものばかりでした。少なくとも私はそう感じていました。
 2月に入ると私の手元に残った「やるべき作業」はほとんどなくなりました。プレス対応マニュアルを作るのが事実上の最後の仕事となりました。GitHub上でこのIssueをcloseしたのはちょうど開催2週間前でした。
 ここから先は、私の物語ではなくなります。

最後に


 当日は懇親会以外の会場に一歩も入らなかった私がDroidKaigi 2016について何かを書くのは気が引けます。一方で私でないと書けないような情報もいくつかありました。同様のイベントを企画する人がもしいれば、何かの参考になればと思います。

 DroidKaigi 2016を開催するにあたっては実行委員長の @mhidaka を始めとするスタッフや講演者を始め、多くの方々の協力がありました。このブログで紹介したのは、ほんの一部の方々だけです。この場を借りて全ての関係者の皆様にお礼を申し上げます。



1 なお日本Androidの会会長の嶋さんには裏でこっそりとご協力をいただきました。
2 他の国公立大学で同じような事ができるのかどうか、私は知りません。
3 全くの余談ですが、代表の @mhidaka は某有名ロックフェスティバルの主催者と同姓同名で、銀行の審査で担当者に間違えられそうになったそうです。

DroidKaigi 2020 中止のうらばなし

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